 |
| 藤原新也 ラ・トゥール |
| ① 3:07-4:17
はな:
藤原さんはこのラ・トゥール、この魅力はどういった所に感じられますか?
藤原 新也:
そうですね、あの。
えー、この前ね、ちょっと僕は旅をして、あの、四国の方を旅したんだけどね。
あの、蝶が飛んでたんですよ。それで撮ろうと思って、撮ってたらね、いつの間にか蝶が
ね、アスファルトの上に影、落とすでしょ。そればっかり撮ってたわけ。
それでずっとアスファルトの上、追っていったら、墓にいっちゃたのね。
(笑い)
それで、ラ・トゥールの絵っていうのはね、その蝶の影がチラホラ、チラホラ見えるんで
すよ。
それで平たっく言えば、キャンバスの裏から引っ剥がす、こう死の影が見えるみたいな。
そう、こう、命と死が張り付いているっていうか、そこが僕の感性と非常に似てて、シン
パシーを感じる、っていうかそういう感じ、しますね。
② 5:16-8:29
藤原 新也:
ラ・トゥールの絵っていうのはあんまりその、実感を感じないっていうか、自己主張する
絵じゃないから、あまり目立たないんだけど、じっくり見ると味わいがジワッとね、なん
か。
ラ・トゥールの絵っていうのは所謂ライティングそのものをさ、ある一つの中心に蝋燭が
あって、それいかにその反射を描くか、光源が一つでそれをいかにその反射光といろんな
ものを描いていくという意味では、ライティングの絵だと思うのね。
あの、一つのライトでね、ライティングすると物凄く難しい。単純になっちゃうから。
だけどこれだけ複雑な、ね、雰囲気が出てるっていうのは、おそらく写実じゃないだろ
う。
例えばこの天使っていうのは逆光なんですよ。ね。逆光でありながら顔は順光なのね。
だから一つの体の中に人物が逆光と順光っていう、僕らのライティングの中ではあり得な
いことをやっているわけね。
それからこの、ずっと向こうに行く薄闇ね。薄闇っていうのは非常に柔らかい空気の闇な
のね。空気を感じる。空気の光。だからこの絵の中にはその、逆光と順光と、顔のその光
方の変化と、それとこの髪や透けた部分とのね、この透けて見える光。いろんな多様な光
を一つのその、蝋燭によっても様々な光を描いているわけですよ。
だからこの絵が凄くこの、単調にならない。非常に単調なライティングでありながら単調
にならない。
まあ、僕らはこういう一つの光で、一つのライティングで写真撮れないね。あの、こうい
うことにならないね。(笑い)
③ 15:06-17:06
はな:
藤原さんは、このラ・トゥールとキュビズムの関係をどう御覧になられますか?
藤原 新也:
僕はこれ、初めてじっくりみたのよね、今。それで、その、この中に十字架が見えるんで
すよ。
はな、 山根 基世:
どこにですか? (笑い)
藤原 新也:
あのね、ちょっと失礼。このね、5人の人がいるでしょ。それでね、この手が同じ線上に
ずっと繋がっているのね。それでこの線がずっと繋がっているんですよ。ここに十字架が
見えちゃうっていう。
あの、僕キュビズムっていうのはセザンヌから始まって、面の世界から結局見た目じゃな
くて、分解しないとね、実際の構造は分からないっていうことで、分解し始めるんです
ね。
だからある意味で合理的な、何ていうかな、合理的な思考によって出来上がってきた造形
だと思うのね。20世紀の合理主義が生んだっていうか。
ただこのラ・トゥールっていう人は合理からドンドン、ドンドン内的世界、心的世界へ向
かっていくわけですよね。そうすると心的世界の更に奥に行くと、あの、非常にシンプル
な造形っていうか、縦線と横線っていうのかな。
要するに横の世界像っていうのがありますよね。縦の地から天に向かう世界像。
そうしてクロスしたモノっていうか。
そうした大きな宇宙の造形のモノにドンドン、ドンドン向かっていって、それがそれが内
的なモノとクロスしていく、っていうか。
そういう意味で言えば、キュビズムのキュービックの究極な形っていうのは、僕はその、
十字架と思うんですよね。 ラ・トゥールのキュービックな意識っていうのは、そういう
内的なものがこう、様式化したものじゃないかって、ちょっと僕はそういう風に見えるん
ですね。
④ 28:16-30:10
山根 基世:
そういう戦乱の中で書いたとすると、その同じロレーヌ公国出身で、年も一つしか違わな
い、あの、版画家のジャック・カロ。悲惨な現実を版画で描いてますよね。
それに対してラ・トゥールの方は、そういうモノを一切描かないで人間の内面の方に向か
う。非常に対極的な表現ですよね。
これ、どう御覧になられますか?
藤原 新也:
このカロの絵っていうのはね、あの、何ていうかな、所謂、ラ・トゥールは現実から篭っ
てカロはその現実を直視したっていうのは、そういう言い方があるんだけども、僕はその
カロの方が現実を見つめながら、所謂、現実から乖離してるなって見えるんですよね。そ
の、現実を演劇的に見なしているんじゃないかと。それでそのカロの絵っていうのは、シ
ネマサイズ。所謂、演劇のサイズなのね。で、ある部分ではね、こういう家の中の虐殺の
場面でも殆ど劇場の空間なのね。だからその、現実を劇化することによってむしろその、
痛感を飛ばしていくっていうか。
あんまりにも現実が厳しい場合は、人間っていうのは痛感を停止してしまうわけね。
山根 基世:
そうするとラ・トゥールの方がむしろ。
藤原 新也:
むしろ僕はラ・トゥールの方が、まあ現代からいうと『ひきこもり』ですよね。彼は。現
実を直視して。逆に『ひきこもり』っていうのは現実にぶつかってからひきこもるんです
よ。
それで彼はひきこもりながら、やっぱり死を一生懸命見詰めている。
だからむしろカロのよりもラ・トゥールの家の方が僕は死臭を感じるんです。
だから全く逆ですよね。僕の感じ方は。
⑤ 35:38-39:48
山根 基世:
1993年、パリの競売所の一角で偶然一枚の絵が発見されました。
調査の結果、ラ・トゥールが最晩年に描いた作品であることが判明します。
描かれているのは洗礼者ヨハネ。腰を降ろし、子羊に草を与えています。
藤原 新也:
一見するとさ、凄く憔悴と挫折感を感じる、絵なのね。
だけど、凄く力があるっていうか、不思議だよね。
挫折と憔悴、と力と希望が入り混じっている。
これまでその、ラ・トゥールの絵には呑みの女性の絵もそうだったけれど、蝋燭の光が出
てくる。火そのものがね。
神様が、傍にいるわけですよ。で、それに照らされて私は存在している。
最晩年のこの絵には蝋燭が消えている。居なくなっちゃってる。
そこでね、何によって、こう光を与えられてるっていうと、その人そのものが光っている
感じがする。
だからキリストとか神とかそういうモノに照らされて自分が現しめるんじゃなくて、この
人自身でも発光できる、する、何かパワーを秘めているっていうか、にも関らず凄く憔悴
してさ、挫折感に満ち満ちているって言いますか。
ただ、ラ・トゥールっていう人が、やっぱりこういう物凄いプレッシャーと、閉塞の時代
にさ、何かを信じよう、信じようとして一生懸命な人だったのね。
で、最終的には物凄く挫折を味わった人じゃない。信じようとしながら。それがこの絵の
中に出てると思う。
ただ救いはね、挫折しながら光ってるんですよ。この人自体が。それでこの、唯一の希望
はさ、この子羊に葉っぱを与えてるのね。世の中の大状況は変えることは出来ないけれど
も、目の前の子羊には何か与えることが出来る。
その小さな祈りを発見した人だと思うんです。
⑥ 41:51-45:00
はな:
藤原さんは、荒野の洗礼者・聖ヨハネを御覧になったときに、あの人物そのものが光だと
仰ってましたが。
藤原 新也:
僕は石膏デッサンと随分たくさんやったんだけども、あのね、最初光と影が見えるんです
よ、物を見たときに。で、それは現象なんですね、光と影っていうのは、飽くまで。で、
その現象をとっぱずしていくと実体が見えてくるっていうか。で、僕も石膏デッサンたく
さんやりながら、その影と光が邪魔になってきて、最後その影と光見たくないという風に
なってきたんですね。
それで最終的にやったのは木炭でバァーッと真っ黒にしてね、それで手で、パンで浮かび
上がらせるっていう技法を使ってね、あの、石膏デッサンをしたわけだけども。その感じ
とこのヨハネの像が凄く似ている。
で、それは存在に、現象からいかに存在に近づいていくっていう修練だと思うんだけど。
存在に近づくっていうのは現象っていうのが物凄くデカイんだけども、存在っていうのは
凄く小さいんですよね。最後はそのヨハネっていうのは『聖』じゃなくて唯の青年がそこ
にいるわけね。
だから声をかけて『おいっ』って言ったら手が届く青年ですね。
で、その、人間っていうのは小さくなる方が大きくなるよりも難しいと僕は思うんです
ね。で、小さくなることによって目の前の何かにタイヤが出来るっていう姿を僕は見て
ね、まあこういう時代の中で大きな事ばかり言う人たくさん多いけれども、目の前の小さ
なことに対してね、あるこう、例えば子羊なら子羊、少年なら少年、少年・少女の状況を
変えることが出来るか?これはなかなか難しいですよね。
はな:
ラ・トゥール自身も絵の中の人物と最後は重ねている、というのはありますか?
藤原 新也:
重なってますね。そう思います。で、そういう表現者としては、まあそういう地点にきた
ら非常に良いなあという。僕はまだまだそこまで行ってませんけどね。 |
| |
| Uploaded: July 10, 2008 at 3:26 am |
| Author: YTMADE7 |
| |
| Length: 00:01:59 |
| Rating: 5.00 |
| Views: 1852 |
| |
| Tags:
藤原新也
ひきこもり
|
|